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「がん検診」ががんをつくる? 知られざる検査の「限界」

「がん検診」ががんをつくる? 知られざる検査の「限界」

前立腺がん増加はまさにがん検診が作り出した  歌舞伎役者、市川海老蔵さんの妻、小林麻央さん(33歳)が乳がんを患っていることが明らかになり、改めて「がん」に注目が集まっている。あらゆるがんにおいて「早期発見」が鍵となるため、がん検診の大切さも改めて見直されているところだ。しかし、日本人のがん検診受診率は低く、人間ドックなどで行われているがん検診の中には有用性が不明なものもある。意外と知られていない「がん検診」の問題点を探った。

 東京都中央区にある国立がん研究センター。国のがん研究の中枢であるこの施設で6月末、気になるデータが発表された。「2012年に新たにがんと診断された患者の推計値で、男性に多いがんを部位別に並べた順位が変動していた」(医療ジャーナリスト)。

 がんセンターによると、推計で男性に多いがんとして挙げられたのは、多い順に胃、大腸、肺、前立腺、肝がん。いずれも前年もランクインしていた部位だが、その順位に変動があった。前年に2位だった前立腺が4位に、4位だった大腸が2位に浮上したのだ。その理由の一つとして挙げられたのが「がん検診」だ。

 前述の医療ジャーナリストは「前立腺がんは、手軽に受けられるPSA(前立腺特異抗原)検査が普及したことで、早期発見の数が増えた。そのため、男性のがんの中で特に数が増えていた」と解説する。少量の血液を採取し、その中に含まれる抗原を調べることで前立腺がんが発見できるPSA検査は、体への負担が少なく手軽なため、受ける人が急速に広がった。その結果、これまでなら見つけられなかった早期がんが多く見つかり、男性のがんの中で前立腺がんが異様に増えた。ところが、〝検診ブーム〟が一段落し、多くの人が検診を受け終わったため、順位が下がったというわけだ。

 前立腺がんに詳しい医師は「前立腺がんは一般的に他のがんより進行が遅く、予後の良いがんとされている。そのため、検診で躍起になって見つけるがんではないとの指摘もある」と話す。検診によってがんが見つかったとしても、治療をしないで様子を見る場合も多く、早期発見が死亡率を下げることにつながらないというのだ。前立腺がんの増加はまさに、がん検診が作り出したがんだったといえる。

乳がん検診の効果は2割程度  では、がん検診には意味がないのかというと、一部のがんに限っては有効性が示されている。07年6月に閣議決定された「がん対策推進基本計画」は、効果的ながん検診の受診率を50%以上にすることを目標とした。ここで勧奨されているのは、乳がん、子宮がん、大腸がん、胃がん、肺がんの検診。これらのがんに対する検診は、ある一定の対象者、頻度、方法において有効性が認められている。

 実際にどの程度の人ががん検診を受けているのだろうか。厚生労働省に聞いてみると、「がん検診の正確な受診率は分からない」というお寒い回答が返ってきた。「市町村が行っているがん検診の受診率を測ることはできるが、職場で行われている検診はここには含まれない。人間ドックでがん検診を受ける人もいるだろうし、全国民の正確な受診率を測る方法は今のところない」

 それでも国民意識調査などの調査からある程度推計することはでき、日本のがん検診受診率は諸外国に比べて低いとされている。そして、こうした予防意識の低い日本人にとって、効果があるとされているのが小林麻央さんに代表される著名人のがん告白だ。乳がんで言えば、タレントの北斗晶さん、女優の南果歩さん、生稲晃子さんなどこれまで数多くの著名人が自身の体験を明かし、検診を受けるよう呼び掛けている。都内の乳腺外科医は「著名人の闘病告白により、検診を受けたいという相談は確かに増える」と話す。

 だが、検診を受けたからといって安心ではない。検診で見つけられないがんもあるからだ。がん検診の有効性が認められている前述の五つのがんでも、死亡リスクを軽減させる効果は2〜8割と幅がある。子宮がんの細胞診は効果が高いとされる一方で、乳がん検診の効果は2割程度にとどまっている。ということは、国が推奨していないがん検診の効果はそれ以下だということだ。

 なぜ乳がん検診の効果が低いのか。先の乳腺外科医によると、日本人の乳房は高密度で、エックス線検査(マンモグラフィー)で白っぽく映る人が多いからだという。同様に白く映るしこりとの違いを見分けるのが難しく、がんを見つけにくい。特に脂肪の少ない若年層で顕著だとされる。

 こうした事態に、東北大医学部の大内憲明教授(腫瘍外科)らは昨年、マンモに超音波検査(エコー)を組み合わせると早期乳がんの発見率が1・5倍になったとの研究結果を発表した。まだ研究段階ではあるが、マンモに加えてエコー検査も行えば見落としが少なくなる可能性は高い。しかし、現状ではマンモによる検診が標準的とされていて、エコー検査は40歳以上の女性に2年に1度推奨される自治体の乳がん検査には含まれていない。

 また、最近は小林麻央さんに代表される30代での乳がん罹患者も増えているが、厚労省が「乳がん検診が有効」としているのは40歳以上。30代の女性は自分で検診に行かない限り検査を受ける機会がない。自分の手で月1回、乳房を触って異常がないか確かめる「触診」を勧める医師も多いが、「異常」かどうかを見分けるのは至難の業で、月1回の触診を習慣づけるのも難しい。

胃がんのX線検査では被ばく問題が  こうした標準的な検診方法の限界は他のがんでもみられる。その一つが胃がん検査だ。市中病院の人間ドックで胃がん検診を受けようとすれば、多くは胃内視鏡(胃カメラ)による検査を案内されるだろう。しかし、自治体の検査で推奨されているのはエックス線(バリウム)検査だ。エックス線検査では放射線被ばくが問題となっていて、バリウムの影響による便秘などのマイナス面も指摘されている。医療担当記者は「昨年4月、がんセンターは自治体の住民検診や人間ドックで行う胃がん検診に、胃カメラを推奨するとする検診ガイドラインを公表した。これまでのガイドラインではエックス線検査のみが推奨されていたが、今後は胃カメラが普及することが見込まれる」と話す。

 もちろんエックス線検査にも効果はあるが、どんな検査においても限界があるということだ。精度が高くても費用がかさむものであれば、費用対効果の観点から自治体の検診に取り入れるのが難しいこともある。また、親戚に乳がんや卵巣がんが多ければ、推奨される年齢に至っていなくても検診を受けた方が良いなど個別事情も関わってくる。治療と同様、がん検診においても、信頼できる情報を得て自分で選ぶことが求められている。

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