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NHKを「政府広報」化する籾井勝人会長

NHKを「政府広報」化する籾井勝人会長

力固めと御用記者の台  また、あの籾井か——。4月26日の衆議院総務委員会に出席したNHK会長、籾井勝人の発言を聞いて、こう感じた国民は少なくなかったに違いない。

 その6日前の局内災害対策本部会議で、災害時の報道について「公式発表をベースに伝えろ」と指示したと報じられたことに関連し、「公式発表とは何を指すのか」と同委員会で質問された際の回答が、実にあきれた内容だった。

 「原発に関しては周辺の放射線量を測定するモニタリングポストの数字、原子力規制委員会の見解などを伝えていこうと。不必要な混乱を避けるという意味で」——。

 NHK会長のくせに、局内の「放送ガイドライン2015」を読んでいないのか。そこでは、「何が真実であるかを確かめることは容易ではなく、取材や制作のあらゆる段階で真実に迫ろうとする姿勢」を求めている。どこに「公式発表をベースに」などという語句があるのか。

 第一、川内原発再稼働の道筋を付けたくせに、「基準への適合は審査したが、安全だとは私は言わない」といった類いの不規則発言を連発している田中俊一が委員長の「原子力規制委員会」の「見解」に、今どき何の権威もなかろう。

 かつてNHKは、「3・11」の福島原発事故後3日から独自の細かな放射能汚染地図を作成した木村真三氏の活動を追い、翌年6月に放送した「ETV特集 ネットワークでつくる放射能汚染地図」が高い評価を得た。決して「公式発表をベースに」しなかったからだろう。災害であれ何であれ、いちいち「公式発表をベースに」していたら、それは政府広報であって、報道では断じてない。

 何しろ、2014年1月の会長↖就任時から、放送内容が「日本政府と掛け離れたものであってはならない」などとのたもうた籾井だ。安倍晋三や菅義偉といった自分の後ろ盾の権力者の意向をすることはあっても、報道機関としての「真実に迫ろうとする姿勢」など、関心の枠外であるのは容易に想像がつく。

 「自主・自律が公共放送の生命線という認識は、戦前のNHKへの根本的反省から生まれています。…政府が右と言っても左という勇気を持ちませんでした。…それがどれだけ悲惨な結果を招いたことか。…不偏不党という言葉にはそういう歴史的な意味合いが込められています」—。

〝良心派理事〟らが相次いで退任 退任あいさつでこのような警告を発したのは、昨年4月までNHKの理事だった下川雅也だった。「NHKに対する信頼が揺らいでいる」とも述べて去った下川は、局内の良心を代弁していたに違いないが、籾井が会長就任以降強行し続けている「粛清人事」の犠牲者の一人。当時、専務理事の石田研一、理事の木田幸紀も同時期退任に追い込まれた。

 今年2月には、閑職に追いやられていた塚田祐之、吉国浩二の専務理事が退任。さらに4月の経営委員会では、現職の8人の理事のうち、籾井ににらまれていた専務理事の福井敬や理事の井上樹彦ら計4人が、一挙に退任に追いやられた。

 籾井は、本年度が就任1期目の最後の年度になるが、2期目について「経営委員会がお決めになること。先々どうするか全く考えておりません」(4月7日の記者会見)などと述べている。こうした横紙破りの「粛清人事」が、本人の権力固め以外の目的で強行されたとは考えにくいだろう。こんなトップが居座り続ける限り、NHKの報道から確実に「真実」が死滅し続けていくことは、籾井就任以降に生じたさまざまな事例を振り返れば明らかだろう。

 「憲法の解釈を変えるということは、ある意味では、日本の国のあり方を変えることにもつながるような変更だと思いますが……国際的な状況が変わったということだけで本当に変更していいのだろうかという声もあります」——。

 14年7月、歴代自民党政権の憲法解釈を放棄し、集団的自衛権行使を「合憲」と強弁した閣議決定後、「クローズアップ現代」で菅にこう食い下がったキャスターの国谷裕子が、「官邸の激怒」によって降板に追いやられたのは記憶に新しい。国谷の質問は、報道として何の落ち度もなかったにもかかわらずだ。

 この3月、最後となった「クローズアップ現代」が取り上げたテーマが、NHKがこの間、意図的にニュースで扱わなかった安保関連法案反対の学生団体・SEALDsであったのは興味深い。

 「(安倍は)日本が再び戦争をする国になったといった誤解があるが、そんなことは断じてあり得ないなどと強調しました。……(集団的自衛権)行使を容認する場合でも限定的なものにとどめる意向で、こうした姿勢をにじませ、国民の不安や疑念を払拭すると同時に、日本の平和と安全を守るための法整備の必要性、重要性を伝えたかったのだと思います」—。

特にヨイショぶり著しい政治報道 国谷とは正反対に同年4月、当の安倍自身が赤面しそうなヨイショ「解説」をやってのけたのが、今や「安倍お気に入り記者ナンバーワン」の誉れ高い「政治部解説委員」岩田明子だ。昨年6月に「サミット開催地に伊勢決定」のスクープを飛ばしたのが岩田だが、「思います」も何もこんなゴマスリに等しい「解説」でも口にしないと、スクープネタも頂戴できないのか。

 同じ程度にひどい好例が、「政治部記者」の田中泰臣。特に昨年9月に与党が参議院で委員でもない議員も動員し、大混乱の中で安保法制を強行採決した際、中継していたアナウンサーが「委員長の発言はまったく聞き取れない状況になっています」と言っているのに、勝手に「採決がされた模様です」などと安倍の援護射撃役を演じた。

 田中は強行採決前から、「日米同盟をより強固なものにすることは不可欠であり、そのための法案」だの、「(安倍は)いずれ分かってもらえるはずだという思いがある」(同年7月17日)だのと「解説」していた。これでは「提灯記事」ならぬ「提灯解説」だが、これが政治部の「真実に迫ろうとする姿勢」の結果なのか。

 もっとも、NHKのニュースが露骨に示すような政治部と外信部をはじめとした「国営放送」ぶりは、今に始まったことではない。最も投票場に行く率が高い地方の高齢者層にNHKのニュース番組は絶大な影響を与えるがゆえに、歴代自民党政権が陰に陽にNHKへのにらみを利かせてきたのは周知の事実だ。

 だが、記者とのオフ懇で「安保法制は、南シナ海の中国が相手なの。だから、やる(法案を通す)と言ったらやる」などと放言する男が最高権力者である今だからこそ、メディアが「政府が右と言っても左という勇気を持」たなければならないのではないか。籾井にとっては馬耳東風だろうが、前述の下川の警告を「視聴者」は聞き逃してはなるまい。

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