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第69回 東電社外取締役・長谷川が「いのち」を語る是非

第69回 東電社外取締役・長谷川が「いのち」を語る是非
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
東電社外取締役・長谷川が「いのち」を語る是非

大津地裁は3月9日、関西電力高浜原発3、4号機の運転停止を命じる仮処分の決定を出した。史上空前の原発事故となった福島第1原発事故から5年を迎える直前に出たこの決定は、あらためて原発が本質的に持つ危険性に関しての議論について、いまだ結論が出たわけではないという現実を思い起こさせたに違いない。

 この原因すら不確定な大事故を引き起こしながら、世界最大規模の原発を再稼働させようと狙っている電力会社の社外取締役に、あろうことか「『いのち』の大切さを見つめ続けてきた」と自称する製薬会社の会長が就任しているという事実は、ブラックユーモアでは済まされない、えもいえぬ違和感を覚えさせはしまいか。言うまでもなく、2015年6月に東京電力の社外取締役となった、武田薬品会長の長谷川閑史のことだ。

福島の健康被害にも抵抗感を持たない
 今回の判決では、「(原発事故による)環境破壊の及ぶ範囲はわが国を越えてしまう可能性」があり、「(原発稼働が)甚大な災禍と引き換えにすべき事情であるとはいい難い」と断じている。「人々の生命に貢献するという揺るぎない信念」といった美辞麗句が満載の「ビジョン2020」なるものも社に掲げさせた長谷川にとって、判決に動じるところはないのか。

 自社の糖尿病薬品・アクトスが驚くべきことに「発がんの危険性を十分説明していなかった」として、米国で過去最大規模数の製造物責任訴訟を起こされた会社のトップだ。「『いのち』の大切さ」や「人々の生命」に敏感であるならば、いまだ放射能の流出が止まらず、原発事故の終息すらままならないのに、新潟の柏崎刈羽原発を再び動かそうとしているような会社の社外取締役というポストに座りたがるはずはあるまい。大津地裁判決など、気にもかけないのだろう。

 すでに東電元会長の勝俣恒久と元副社長の武藤栄、武黒一郎の旧経営陣3人が、遅まきながら業務上過失致死傷の罪で在宅起訴されている。長谷川とて社外取締役どころか、「堀の外」にいられるのが不思議なくらいだ。戦後の薬品会社が起こした不祥事で最も悪質な事件の一つに、14年に発覚した武田の降圧剤・ブロプレスの研究不正、データ捏造が挙げられるが、本来なら長谷川が刑事告訴されてもおかしくないケースだった。

 事実、14年6月26日に開かれた参議院厚生労働委員会で、共産党の小池晃は、「(高血圧治療薬のデータ改ざん事件を起こした)ノバルティス社については厚労省は東京地検に告発したわけですが、武田薬品についてももちろん同様の対応が必要だと思いますが、いかがですか」と追及している。

 これに対し、厚労大臣(当時)の田村憲久は「分かってきた事実を基に適切な対応をしてまいりたい」といった程度の答弁でお茶を濁している。逮捕者まで出した外資のノバルティスと違って厚労省は武田を告発しなかったが、長谷川が無事でいられたのは業界ナンバーワンの武田の代表取締役社長という地位の他、経済同友会代表幹事、政府の産業競争力会議民間議員という当時のポジションにもあったことによる、検察の例の「政治的配慮」によるものに違いない。

 もともと東電の社外取締役は、同友会が押さえている数少ない指定席。長谷川の前任だった三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光は、経済同友会の副代表幹事だった。長谷川にとっては代表幹事退任後の「名誉職」として、不満があろうはずもない。小林は長谷川と交代して同友会代表幹事に就任したから、東電の社外取締役とはこの程度のものだといえなくもない。

 だが、それでも「製薬会社」という帰属性は、長谷川にとってかくも軽いものなのか。いかに建前であれ、「いのち」だの「生命」がどうのこうのと唱えている会社だ。メディアがほとんど追及しないおかげで、現時点で事故当時18歳未満だった計166人(疑いを含む)が甲状腺がんと診断されているといった戦慄するような健康被害の現状はあまり知られていないが、「製薬会社」のトップにとって、原発ユーザーの電力会社とは、それほど抵抗感を待たずに済む存在なのだろうか。

 何しろ長谷川は原発事故から1年半後の12年9月、経済同友会代表幹事時代の日本経団連会長の米倉弘昌、日本商工会議所会頭の岡村正(いずれも肩書きは当時)との3人による「異例」の記者会見で、「原発ゼロに断固反対」とまくし立てていた男だ。原発事故では何よりもまず「生命」への影響が懸念されるといった常識があれば、どこかで東電の社外取締役などというポストに逡巡してしかるべきだろうが、そんな気配は微塵もない。「ビジョン2020」の如きは長谷川にすれば、お得意の誇大広告の変種みたいなものなのだろう。

長谷川と東電に共通する「隠ぺい体質」
 それどころか長谷川は、東電という会社と何やら相似性を感じさせなくもない。2月に、こんな話があった。東電が、福島第1原発のメルトダウン(炉心溶融)をようやく認めたのが事故発生2カ月も経ってから。理由は、昨年末まで「判断する根拠がなかった」と言い続けてきた。ところが突然、今になって「炉心損傷の割合が5%を超えていれば、炉心溶融と判定する」という記述がある当時の「事故判定マニュアル」を「発見」したと言い出した。事故後数日でメルトダウンと「判断」できたわけで、これまでの言い訳は最初からうそだったのだ。

 東電のこの種のスキャンダルは挙げればきりがないが、武田も前述のアクトスの集団訴訟では「原告側が、糖尿病治療薬の有効性や影響に関する重要なやり取りをしていた電子メールなどの一部を『武田側がわざと破棄した』と主張。(中略)地裁の判事は武田側がメールを適切に保全していなかったと認定しており」(『日経 』14年4月9日付)などと報じられている。ブロプレスの件も含め、隠ぺい体質という点ではいい勝負だ。

 武田の「経営の基本精神」は「誠実」で、それを支えるのが「公正、正直、不屈」だとか。ならば人様の「いのち」をうんぬんする前に、長谷川も東電と同様、せめて世間並みの「誠実さ」ぐらい身に付けてしかるべきではないのか。

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