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未来の会

第68回 急速に失墜する「武田ブランド」

第68回 急速に失墜する「武田ブランド」
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
急速に失墜する「武田ブランド」

 武田薬品の国内地盤沈下が止まらない。すでに株価では、業界第2位のアステラス製薬の、実に3分の1という水準に落ち込んだままだ。第4位のエーザイにも差を付けられ、16位ながら爪白癬治療剤「クレナフィン」が絶好調な科研製薬の水準にも及ばないありさまだ(2月10日の前日終値)。

 会長の長谷川閑史が、米国帰りの悪習からか、口を開けば「グローバル」がどうのこうのと散々のたまっていたものの、肝心要のドメスティック(国内)がこの体たらくでは、もはや唯一最大の売り文句となりつつある「業界トップ」も、そのうち使えなくなるのではないか。

 事実、2016年3月期決算で見ると、武田の売上高は1兆8200億円。伸び率は2・4%で、新薬企業24社の平均6・1%の半分以下だ。売上高で1兆3840兆円のアステラス製薬に4400億円の差を付けてはいるが、こちらの伸び率は11%と武田の5倍近い。このままの水準で推移すると、遠くない将来、「トップ転落」という事態も考えられなくはないだろう。

 しかも、薬価改訂がない年であったにもかかわらず、16年の第3四半期直近3カ月の連結営業利益は、前年同期比30・8%減の570億円に落ち込み、売上営業利益率は前年同期の16・9%から、11・7%に大幅低下した。国内売上高は、13年3月期から3期連続の減収で、今期も楽観視できるような状態にはない。

 確かに16年3月期通期の営業損益は、従来予想の1050億円の黒字から1200億円の黒字に14・3%上方修正している。だがこれは、言うまでもなく海外利益が貢献して、穴埋めした結果なのだ。もし国内の低調がこのまま続くようだと、いつまでもこの水準の黒字が確保できるかおぼつかないだろう。

期待できる新薬が生まれない
 武田は、17年3月期から国内売上高は増収に転じると強気なようだが、問題は長期収載品の落ち込みをカバーするような成長が期待できる新薬が、今後登場するかどうかにある。この点で、現時点では何とも心もとない。それを考えると、やはりどうひいき目に見ても長谷川の11年に及ぶ社長時代は、武田の歴史において主力商品に関し結果を出せなかった、いわば「空白」期だったのではないか。

 本人にとっては、その肩書きで経済同友会の代表幹事という「財界ごっこ」にも興じることができてご満悦だったかもしれないが、長谷川が社内の実権を握り、院政を敷いている今日まで、消化器用剤「タケプロン」や循環器官用剤「ブロプレス」、糖尿病治療剤「アクトス」といったかつてのブロックバスター(年商約1000億円を超える新薬)に匹敵するような新薬は生まれていない。十三の大阪研をわざわざ閉鎖し、1470億円もの巨費を投じ、湘南研究所(神奈川県)を鳴り物入りで開設した後に、いったいどんな新薬を登場させることができるのか。

大学や病院で煙たがられる武田のMR
 しかも皮肉なことに、その「ブロプレス」の悪質な誇大広告という長谷川の社長時代に起きた京都大学を巻き込む一大スキャンダル(14年)によって、かつての雪印乳業の一件を思い起こさせるほど武田のブランドは急速に失墜してしまった。

 その結果、業界では別格の威光を欲しいままにしていた武田のMR(医療情報担当者)の存在価値も、大学や病院で煙たがられるようになって低下を余儀なくされたことは、業界では誰一人として知らぬ者はいまい。

 もう現場では、「武田の営業力は以前より相当低下している」(他社MR)というのは定説だ。そのことが、なかなか抜け出せない国内の低調ぶりと、無縁であるはずがない。だが、これだけのことをしでかした長谷川本人は、周知のように辞任もしていない。おまけに相も変わらず武田は、「グローバル」どころか国内では不祥事を起こし続けている。

 厚生労働省の医薬・生活衛生局はこの1月12日、新たな副作用などが確認された医療用薬について、医療従事者に注意を促すため添付文書を改訂するよう日本製薬団体連合会に通知した。

 このうち、武田の高血圧症に用いるアジルバ錠と、同剤とアムロジピンを配合したザクラス配合錠に関し、副作用(薬剤との因果関係が否定できない症例)として「横紋筋融解症」がそれぞれ計5例(アジルバ4例、ザクラス1例 いずれも死亡例なし)確認されたため、この症状を「重大な副作用」として添付文書に追記するよう求めた。

 「横紋筋融解症」は、筋肉痛や脱力、手足のしびれを伴い、急性腎不全を起こす可能性もある。例によって例の如く、巨額の広告費という毒が回ってか、マスメディアの報道はなきに等しかったが、これがいったい「業界トップ」企業のやることか。実際にどれほど被害者が出ているのか気になるが、誰しも最初からあの武田のこと、副作用が出かねないのを隠蔽していたのではないかと、疑いたくもなろう。

 まだある。厚労省は15年9月、自社の薬剤を投与した患者に重い副作用が出ていたにもかかわらず、法律に従わずに報告しなかった医薬品会社5社を発表した。内訳は、①ブリストル・マイヤーズ(30人)②藤本製薬(6人)③セルジーン(5人)④ヤンセンファーマ(4人)と、最後に武田(1人)が加わる。

 同省は5社に対して、詳しい報告を求めるとともに再発防止策を取るよう指示したというが、外資を除く2社のうち1社が、またしても「業界トップ」企業なのだ。今や長谷川武田にとって、「業界トップ」の座の死守は至上命題になりつつあるが、いつまでこんなことを繰り返しているつもりなのか。それほど「業界トップ」の座が大事なら、せめてそれにふさわしい矜持を示すべきだろう。

 「グローバル経営」と称しながら、長谷川の保身と名誉欲に駆られた計算によって引き抜かれたフランス人の社長兼最高経営責任者(CEO)、クリストフ・ウェバーにも、そうした矜持を求めるのは無理なのか。かつての全盛期、骨太で「現場力」を誇った武田の姿は、何かと白人と英語を重宝したがる長谷川によって変質を遂げつつある。そのツケは、遠くない将来、どんなに権力に意地汚くともいずれ手放さねばならない運命にある長谷川が去った後、社員が負うことになるのは言うまでもない。

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