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未来の会

ファイザー

 世界的に患者数が多い糖尿病治療薬では、DPP4阻害剤に続いて盛り上がっているのはSGLT2阻害薬で、すでに12社から7製品のSGLT2阻害剤が発売されているが、ここにもファイザーの名前がない。

 「抗がん剤で今最もホットなのが本庶佑・京都大学名誉教授の発見したPD‐1抗体に関係する免疫療法です。すでに小野薬品工業とブリストル・マイヤーズスクイブが開発した抗PD‐1抗体のオプジーボが各国で承認されたのに続き、欧米の医薬品メーカーは抗PD‐1抗体、抗PDL‐1抗体という抗がん剤の開発にしのぎを削っているのに、ここにも日本の医薬品メーカーと共にファイザーの名前が出てこない」(前出のアナリスト)

 この間、ファイザーは130億㌦もの記録的売り上げを誇った高脂血症治療剤「リピトール」が特許切れを迎えて以来、ジリ貧に陥っている。リピトールだけではない。期待の経口リウマチ薬「ゼルヤンツ」は伸び悩んでいるし、抗がん剤「ザーコリ」は、ノバルティスから非小細胞肺がん治療剤「ザイカディア」が発売されて、伸びが止まっているという。13年にはスイスのノバルティスに世界トップの座を明け渡したほどだ。

新薬開発より即利益上がる経営志向

 この減収を食い止めようとしたのが合併だ。ファイザーは過去、大型合併で世界一を維持し続けてきた。今回はまず、注射剤のジェネリック医薬品(後発薬)メーカーであるホスピーラを買収。次はイギリスの製薬大手、アストラゼネカの買収計画だった。アストラゼネカの買収はアメリカの40%の法人税より安い21%の税率であるイギリスに本社を移すインバージョン(外国への本社移転)による節税で利益を上げる目的だったともいわれている。

 だが、アストラゼネカから買収金額を次々と引き上げさせられた挙げ句、拒否されて失敗。原因には、アストラゼネカが業績の回復を見込めるようになったことに加え、税金逃れの手法をイギリスのマスコミから「悪の帝国」呼ばわりされたり、アメリカからも「愛国心がない」と批判を浴びせられたりしたことが挙げられる。

 ファイザーは画期的な新薬開発を目指すより、利益が即上がる経営をしがちである。最近も合併と共にジェネリック医薬品とワクチンに注力しているかに見える。ワクチンでは最近だけでも昨年はバクスターから髄膜炎ワクチン事業を買収し、今年はスイスのワクチンメーカー、レドバックスを、またグラクソ・スミスクラインからも髄膜炎ワクチン2製品を買収している。世界のワクチン市場ではトップではないものの、大手の一角を占めている。

 一方、ジェネリック医薬品ではバイオシミラー(バイオ後続品)の時代を迎えているが、バイオシミラーには参入メーカーが多く競争が激化、価格が叩かれる。株主の要望に応え、利益を重視しなければならないファイザーは、低収益に耐えられるだろうか。今まで、買収後、人員削減で収益を生み出してきたファイザーの経営に疑問をもたれるようにもなってきている。

 このファイザーの姿勢が日本市場に影を落としているというのである。その理由の一つが4月に発売した男性型脱毛症(AGA)治療剤「フィナステリド錠」だ。MSDの「プロペシア(一般名・フィナステリド)」のジェネリック医薬品である。「ファイザーの『バイアグラ』は後発品を発売されて売り上げが低迷しつつある。代わりにプロペシア後発品で利益を上げようというのはないか」(ある外資系製薬メーカー)という声もある。だが、今、グラクソ・スミスクラインが前立腺肥大症治療剤「アボルブ(一般名・デュタステリド)」をAGA治療剤として適応拡大を申請している。日本で200億円の規模であるAGA市場で、ファイザーのプロペシア後発品は影が薄くなってしまいそうだ。

 もう一つは後発品の〝ネット販売〟に類したウェブ上での後発品注文の間接的受付だ。ファイザーのエスタブリッシュ医薬品事業部(長期収載品と後発品部門)の特設サイトで、必要な後発品をクリックし購入を選ぶと、医薬品卸の購入サイトに飛び、卸に注文する形になっているという。外資系医薬品メーカーは日本の流通経費が高過ぎるとたびたび問題にしてきたが、ファイザー流の流通経費節減のテストではないかといわれている。もちろん、一部の後発品に限られている上、拡大するのかどうかも不明だが、いかにも利益確保を重視するファイザーらしい姿勢だ。

 ファイザーの新薬開発を担当する革新的医薬品部門は、腎細胞がん治療剤に続いて、乳がん治療剤に力を入れている。

 しかし、免疫療法に遅れを取っただけに、新薬を期待できるか疑問が残る。しかも、新薬開発によるのではなく、合併での利益確保という、今までのような成長戦略はもはや通用しなくなっている。こうしたファイザーの停滞が副作用情報に鈍感な体質にしてしまったようだ。

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