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東レ

東レ
万能抗がん剤」の夢は幻となり 「我が道を行く」前途にい影

 東レは今、最も勢いのある会社の一社である。かつて「ラーメンからロケットまで」と宣伝したが、実際、事業範囲は広い。同社の代名詞のように知られている、鉄より強く、鉄より軽い炭素繊維複合材料は航空機の主翼や胴体部分に使われ、自動車にも利用されている。逆浸透膜は海水淡水化から純水製造、さらに血液浄化など用途は広い。もともとは合繊メーカーだが、その合繊でもユニクロのヒートテックを生み出す。同社は手掛ける分野をどれもこれも最先端事業に変えてしまう。しかも、その多くが世界ナンバーワンなのだ。同社の榊原定征会長が日本経団連の会長に就任したのも当然といえば当然だ。

 医薬事業でも1970年代から80年代にかけて〝夢の抗がん剤〟と期待されたインターフェロンに取り組んだ企業として知られる。だが、天然型インターフェロンβ製剤は肝がんに効果がある程度で、夢はしぼんだ。そのせいなのか、同社の医薬事業は旭化成や帝人と比べ見劣りしていた。だが、この眠れる巨人が医薬事業に力を入れだした。

 東レが医薬事業に本腰を入れて取り組む姿勢を内外に示したのは、2011年に新薬メーカーの団体である日本製薬工業協会(製薬協)に加盟したことである。合繊3社のうち、旭化成は骨代謝領域に強みを持つ子会社の旭化成ファーマが、帝人は高尿酸血症治療剤「フェブリク」を引っ下げて世界市場に出ようとする帝人ファーマがすでに加盟している。東レの加盟は遅過ぎたくらいだ。当時の製薬協では 会長の任期途中での交代や、不祥事による田辺三菱製薬の退会、MSDの資格停止が続いた時期だけに、明るいニュースだった。同時に、技術力抜群で、他と協調せず我が道を行く姿勢の東レの参入に製薬各社は内心警戒を強めたものだ。

 東レはそれまで医薬品事業に取り組んでいなかったわけではない。70年代後半、真っ先にインターフェロンの大量生産に取り組み、85年に日本初の天然型インターフェロンβ製剤「フエロン」をつくり、・皮膚悪性黒色腫の抗がん剤として承認され、第一三共と共同販売した。フエロンはその後、B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、さらにC型肝硬変に追加適用されたが、東レはインターフェロンの発売を機に88年に医薬・医療事業部門(現ライフサイエンス事業部門)を新設し、「東レ・メディカル」なる販売会社も設立して医薬事業に参入した。

主力の「フエロン」への夢縮む
 だが、製剤化されたときには、効果があるのは肝炎や肝硬変になり、「万能抗がん剤」の夢の半分は幻となった。以来、92年に血流障害を改善する抗血小板薬「ドルナー」が世に出たものの、東レの医薬事業はあまり注目されなくなった。製薬業界では「万能の抗がん剤と目されたフエロンの夢が縮小した後遺症ではないか」とささやかれた。

 だが、製薬協加盟は東レが医薬事業に本腰を入れた証左といえる。もっとも、加盟した当時の長期経営ビジョンでは、空気浄化や水処理、環境低負荷事業などのグリーンイノベーション事業の拡大に注力するとうたったが、医薬・医療事業であるライフサイエンス事業については単に「M&Aや事業提携を含め、育成・拡大する」としか記していなかった。ライバルの合繊メーカーは「医薬事業は続けるということか」と、ひと安心した。14〜16年度の中期経営課題には6事業部門のうち、グリーンイノベーション事業とともに、ライフイノベーション事業を「事業拡大する重点的育成部門」と位置付けた。しかも、東レは事業部門にこだわらず、社内横断的なプロジェクト思考で技術開発する会社だけに医薬事業への本気度が感じられる。

 何しろ、医薬品より先に始まった医療機器・材料では抗血栓性医療材料「アンスロンP‐Uカテーテル」を世に送り出し、膜表面加工技術によりPMMA膜性中空糸型人工腎臓システム「フィルトライザーNF」を発売している。その後も血液引過器「ヘモフィールCH」「ヘモフィールSHG」、吸着型血液浄化器「トレミキシン」、血液透析濾化器「トレスルホンHDF」などを発売。どれもが化学繊維から発展した逆浸透膜の技術を駆使したものであり、瞬く間に血液濾過、透析機器分野で強固な地盤を築いている。各部門が手持ちの技術を応用、開発に邁進する能力を持っているだけに医薬品開発への注力は侮れない。

心もとない医薬品、パイプラインの数
 とはいっても、医薬品が数多くあるわけではない。フェロン、ドルナーとドルナーの徐放性製剤「ケアロード」に、12年度大河内記念技術賞を受賞した難治性治療薬「レミッチ」があるだけだ。もちろん、透析患者の掻痒症治療として承認されたレミッチは慢性肝疾患掻痒症治療剤としての効能追加を申請中だし、欧米でも治験を進め、大型化の期待があるにしても医薬品の数は少ない。

 さらにパイプラインも少ない。東レが期待しているパイプラインには過活動ぼうこう治療剤の「TRK‐130」と、炎症性腸疾患治療剤「TRK‐170」があるだけだ。インターフェロンβ製剤を生み出した神奈川県鎌倉市の東レ基礎研究所を99年に「医薬研究所」に改称、03年にバイオとナノテクノロジーの重なる領域の研究機関として「先端融合研究所」を新設し、医薬分野への本格参入を目指した割には少な過ぎる。導入品はゼロだ。昨今、日本の製薬大手はいうに及ばず、欧米の製薬大手さえ自社創生の新薬に乏しく、ベンチャーを買収したり、ベンチャーが見つけ出した新薬候補を導入したりしてパイプラインを確保している。そんな中で、東レは自信過剰ともいえるほど自社創生にこだわっている。

 その上、フェロンの販売は第一三共、ドルナーはアステラス製薬、レミッチは鳥居薬品に販売委託している。独特の医薬品だから製薬企業が販売に力を抜くことはないが、医薬品に力を入れるなら、将来を見据えた販売機能を持つ必要があるだろう。競合品が出てきたとき、販売委託先が手を抜いたら東レの販売戦略が狂う懸念もある。

 ただ、東レには〝奥の手〟もある。同社が5%の株式を保有する科研製薬を活用するシナリオである。科研製薬は理研から派生した新薬メーカーだが、画期的な新薬に乏しく、製薬メーカー70社中、中堅下位に甘んじている。しかし、東レとの間では72年に生理活性物質「プロスタグランジン」を共同開発したことに始まり、ドルナーを共同開発(科研製薬の商品名は「プロサイリン」)した親しい間柄だ。将来、科研製薬をライフサイエンス部門に取り入れてパイプラインの充実、新薬開発、さらに販売機能を手中にする必要性に迫られることも予想される。

 今、東レのライフサイエンス事業の売り上げは昨14年3月期が582億円。15年3月期が600億円(見通し)に過ぎないが、16年度(17年3月期)には800億円、20年度には1800億円に拡大する計画だ。この売り上げ達成を主力医薬品のフェロン、ドルナー、レミッチの適用拡大と海外展開でブロックバスターに育て上げることで成し遂げようという心積もりである。

 だが、主力のフエロンに陰りが出始めている。インターフェロンは肝炎、肝硬変に広く使われているが、副作用も強く、インターフェロンを使わない「インターフェロン・フリー」が望まれている。そんな折、米ギリアド・サイエンシズが慢性C型肝炎に抜群の効果を示す「ソバルディ」や配合剤の「ハーボニ」を開発。欧米で相次いで承認されている。

 ハーボニは標準12週療法で9万4500㌦(約1100万円)、1日1000㌦(約12万円)という高い薬価が問題になっているが、ギリアド・サイエンシズは「長期間、副作用もある医薬品を使い続けるより、ソバルディを使って完治させた方が結果的に安上がりだ」と反論。このソバルディは日本でも承認申請中で、年内にも承認される見込みだ。価格の問題も健康保険制度と高額療養費制度が整備されている日本では患者負担は少なく、健康保険組合も国民健康保険もC型肝炎が完治することでかえって安くつくと判断するだろう。今後、C型肝炎治療はインターフェロン・フリーのソバルディやハーボニに替わりそうだが、東レにとっては大打撃だ。

韓国事業に潜むカントリーリスク
 東レは本体の炭素繊維でも韓国に最新鋭の量産工場を建設した。韓国内の需要とともにFTA(自由貿易協定)を結んでいる欧米への輸出を狙ったものといわれている。東レの元副社長が日韓経済協会会長を務めることやサムスンが東レだけは大事にしていることで親しいのだろうが、過去、韓国に進出した大手も中小企業も賃金や雇用、規模縮小の問題が起こると、必ずといっていいほど「植民地時代の借りを返せ」と手ひどい扱いを受け撤退した。FTAも各国の政治状況次第で変わることもあり得る。万一、韓国から欧米への輸出ができなくなったとき、人口5000万人の韓国市場で全量販売できるのか。こうしたカントリーリスクが東レには抜け落ちている。

 ライフサイエンス事業でもソバルディ、ハーボニの登場で、東レの看板のフエロンの用途が急速に萎みそうな事態は、「我が道を行く」東レの前途に落とし穴が潜んでいることを示している。

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