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アステラス製薬

アステラス製薬
営業利益で武田薬品を上回るも 絶好調の裏に見える「死角」

 今年で合併10年目を迎えたアステラス製薬は、このところ業績も順調だ。2013年3月期決算で売り上げでは1兆5572億円の武田薬品工業を下回るが、営業利益では1538億867万円を記録し、武田薬品を約313億円上回った。今中間期でも営業利益は1031億円で武田薬品の1166億円とほぼ肩を並べている。武田の「一強」時代から「武田とアステラス」と比較対照する時代になってきた。

 合併前は、かつて土壌細菌から免疫抑制剤「プログラフ(一般名タクロリムス)」を生み出したが、その後泣かず飛ばずだった旧藤沢薬品も、アメリカ出身の健康食品会社、シャクリーを買収したもののだまされたような状態で大損を出し、後遺症を引きずっていた旧山之内製薬も、特許切れ寸前の薬ばかりで新薬に乏しかった。

 合併時の竹中登一社長が記者会見で「一度でいいから武田を抜いてみたい」と語ったのは製薬業界で語り草になっているほどだ。それだけに感無量だろう。

国内の苦戦を海外売り上げでカバー

 同社の業績はまずまずの成績だ。15年3月期中間決算では、国内販売は薬価引き下げと後発品の使用促進策の影響で、製薬各社同様に7・1%減の2295億円だった。長期収載品である高脂血症治療剤「リピトール」は23・6%減の245億円に落ち込んだし、降圧剤「ミカルディス」も0・5%減の471億円だった。加えて過活動治療剤「ベシケア」もぜんそく治療剤「シムビコート」も消費税増税前の駆け込み購入の反動で、それぞれ15・5%減、4・5%減と落ち込んだ。わずかに、今年、発売された新薬の前立腺がん治療剤「イクスタンジ」が56億円、糖尿病治療薬のSGLT2阻害剤「スーグラ」が26億円を売り上げて気を吐いた。

 この国内の苦戦を海外の売り上げでカバーした。それもグローバル商品群が米国、欧州、アジア、オセアニア各地で現地通貨建てで2桁の伸びを記録したという。具体的に挙げれば、売り上げが166%増の546億円に伸びたイクスタンジを筆頭に、ベシケアが5・3%増の666億円、過活動膀胱治療剤「ミラベトリック(日本名ベタニス)」が110%増の223億円、プログラフが6・5%増の952億円、抗がん剤「タルセバ」も8%増の247億円と、好調な売れ行きだった。

 アステラスには、エーザイのアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」や武田の国際4品目のように、一医薬品で数千億円を売り上げるようなものはない。せいぜいプログラフが1000億円弱にすぎない。

 しかし、ブロックバスターに頼らず、幾つもの医薬品が世界で通用し売り上げを伸ばしていることが、アステラスらしい強みとなっている。売り上げでは武田に及ばないものの、製薬メーカーの実力を示す営業利益は15年3月期予想でも武田とほぼ互角である。

売り上げ目標は5年遅れで達成

 とはいっても、今まで順調だったわけではない。合併初年度の06年3月期の売り上げは8793億円だった。当時、竹中社長は「07年度に売り上げ1兆円、営業利益2500億円」の目標を掲げた。だが、売り上げ1兆円に達したのは13年3月期と5年も遅れた。営業利益に至っては08年3月期に2759億円を記録したことがあるだけで、それ以来達成していない。

 しかし、07年から始まった金融危機とリーマンショック、08年と09年には主力品のプログラフ、排尿障害治療剤「ハルナール」の特許切れを迎えたが、どうにか試練を乗り越えた。合併後、純粋な新薬メーカーに徹したことが、背水の陣の意識となって幸いしたのかもしれない。

 普通、合併会社は社員の意識の中に出身会社の習慣が色濃く残る。だが、アステラスでは合併後、リーマンショックや特許切れの危機を迎えたことで、旧藤沢、旧山之内という出身母体をうんぬんする余裕がなかったようだ。

 合併後、一般薬部門を第一三共に売却し、ジェネリック医薬品にも進出しようとせず、純粋な新薬メーカーに徹した。武田は一般薬を持ち、後発品は系列のあすか製薬が担っている。エーザイも一般薬と後発品を扱っている。ライバルの第一三共はランバクシーを買収したほどジェネリックに積極的だから、アステラスの新薬メーカーに徹しようという姿勢は珍しい。

 それどころか、同社は研究体制の再編、広がり過ぎていた欧米拠点の整理を進めた。研究体制の再編では旧藤沢が移植の成功率を格段に引き上げたプログラフや抗真菌剤「ミカファンギン(日本名ファンガード)」を生んだ発酵創薬研究から撤退。資産を大鵬薬品に譲渡。それも野木森雅郁会長と畑中好彦社長という旧藤沢出身のトップが行ったのだから驚く。米国の子会社2社の研究所も閉鎖。国内でも15年度に関西の研究拠点である大阪・加島事業所を閉鎖、中核拠点のつくば研究センター(茨城県)などに集約するという。

 加えて、一般薬部門のゼファーマを売却する一方、米OSIファーマシューティカルズの買収では、敵対的買収者の出現や買収価格釣り上げにも冷静に対応し、買収を成功させてきた。この買収交渉は武田が高値で次々に海外企業を買収し、第一三共がランバクシーを高値でつかまされたのと対照的でさえある。合併の実質的な差配をしてきた畑中社長の手腕が、今日、アステラスを武田と並べて語られるほどにしたといえる。純粋な新薬メーカーへの脱皮も、抗生物質に頼る体質から泌尿器領域、抗がん剤、糖尿病などの生活習慣病への対策の変化が成功をもたらしている。その抗がん剤も誰もが考える患者数の多い肺がんや乳がん、胃がん向けの抗がん剤ではなく、前立腺がんから参入するという身の丈に合った開発に徹したことが今のところ成功している。

 例えば、ハルナールは国内の多くの新薬メーカーから「そんなもの売れるわけがない」とばかにされたが、世に出したら欧米で歓迎され、国内でも悩む人が多く、大型商品になったという幸運もある。ハルナールの登場は排尿障害を恥ずかしいことと片付けてきた風潮を除去させた功績さえ挙げられる。

 泌尿器領域ではベシケア、さらに日本薬学会創薬科学賞を受賞したベタニスと続く。抗がん剤でも抗Xa剤「ダレキサバン」は断念したが、イクスタンジの開発に成功。糖尿病分野ではスーグラの開発にいち早く成功。国内最初のSGLT2阻害剤として上市した。

 その上、パイプラインも豊富だ。合併時にも35品目が第2相、第3相試験段階だったが、今でも(10月時点)効能追加を含めて第2相、第3相試験段階の新薬候補は23品目ある。

 さらに、 ライバルである第一三共との間で創薬の基盤となる化合物ライブラリーのうち40万を相互に利用する提携を発表して医薬品業界を驚かせた。製薬メーカーや医薬品担当アナリストの間では「合併に向けた動き」とも取られているが、創薬初期段階に新薬候補化合物を検索するハイ・スループット・スクリーニングが迅速に進む効果が期待できる。

 アステラスは自らを「グローバル・カテゴリー・リーダー」と位置付けているが、それは一品目で数千億円を売り上げるブロックバスターはなくても、世界に通用する新薬を提供し続けることに徹するということらしい。

 しかし、同社にも死角がある。今、好調であることは、今後は下り坂しかないということにもなりかねない。実際、同社の大型品であるベシケアは18年に米国特許が切れる。ベシケアに続くベタニスがあるといっても、一品目だけではグローバル・カテゴリー・リーダーとは言い難い。スーグラも今や、各社でSGLT阻害剤を発売した結果、6剤が登場し、混戦模様になっている。

有力な後継抗がん剤が見えない

 さらに、泌尿器領域と並ぶ抗がん剤領域では、イクスタンジに続く前立腺がん以外のがん領域で有力な抗がん剤が見えてこず、アムジェンとの共同開発を進めている胃がんを対象疾患とした抗HGF抗体「リロツムマブ」くらいしかない。畑中社長は「急性骨髄性白血病をターゲットにする『ASP2215』に期待している」と語るが、まだ国内第1相試験中にすぎず、海のものとも山のものとも判断できない。

 その上、豊富なパイプラインも中身は導入品が多いのである。開発中の第2相、第3相試験中の化合物23品目のうち、自社オリジンは提携したアムジェンとの共同開発を含めても10品目にすぎない。同社は「第一相試験中のものでは17品目中、16品目が自社オリジンだ」と強調するが、第1相試験中の化合物では当てにできない。

 畑中社長はこうした状況を見越して、海外ではOSIファーマの買収、アムジェンとの提携、国内では研究部門の集約を進める一方、第一三共との化合物ライブラリーの共有を実施した。だが、プログラフやハルナールの特許切れは乗り切った同社の目の前には、18年のベシケアの米国特許切れが迫っている。次の新薬を誕生させないと、本社を隣に移転してくる武田を追い越すどころか、ジリ貧になりかねない。

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