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第18回未来の会

田辺三菱製薬

田辺三菱製薬
トップ交代しても再び合併の道歩みかねない 新薬創出力と積極経営の欠如

 三菱ケミカルホールディングス傘下の田辺三菱製薬(以下、田辺三菱)は4月、社長に三津家正之氏が就任すると発表した。就任は6月20日の株主総会後で、現社長の土屋裕弘氏は代表権を持つ会長になる。2007年に田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併して誕生した田辺三菱は葉山夏樹氏、土屋氏と旧田辺製薬出身者が続き、三津家氏が初の三菱出身社長となる。東大大学院薬学研究科博士課程を修了後、旧三菱化成に入社、三菱ウェルファーマでは製品戦略部長、合併後の田辺三菱で執行役員の後、09年に取締役に昇格。今年4月に代表取締役専務執行役員に就任したばかりだ。

 土屋氏は社長交代の理由に「インパクトのある新薬を上市できた一方、血液事業を譲渡し事業構造の改革ができたし、子会社のバイファの品質データ改ざん事件に対し第三者委員会に問題点を指摘してもらい再発防止の取り組みができたこと」を挙げた。田辺三菱は優れた医薬品を生み出すかと思えば、数多くの問題を起こした会社だ。三菱出身者にバトンを渡して躍進する体制になれるか。

カナグリフロジンで「負の遺産」を清算

 田辺三菱を代表する医薬品は関節リウマチ治療剤「レミケード」。抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤と呼ぶが、世界最初の生物製剤で、同社を支えてきたといっても過言ではない。つい先日、08年度に続く2度目の市場拡大再算定で10・9%の薬価引き下げが行われたが、再算定の対象は「売上高が当初予想の2倍以上かつ150億円超」だからいかに売り上げが大きいかが分かる。レミケードの類似品に「ヒュミラ」(アッヴィ)、「シンポニー」(ヤンセンファーマ)、「シムジア」(ユーシービージャパン)などがあるが、レミケードはナンバーワンの売り上げで、田辺三菱がシンポニーの販売も担当しているだけにリウマチ治療剤分野でトップの座は揺るぎない。

 2型糖尿病治療剤でも目覚ましい。DPP4阻害剤に「テネリア」を持つが、DPP4阻害剤はMSDの「ジャヌビア」の他に小野薬品工業の「グラクティブ」、武田薬品工業の「ネシーナ」、ノバルティスの「エクア」等々、8品目も出回り過当競争状態。だが、田辺三菱は新しい糖尿病治療剤であるSGLT2阻害剤「カナグリフロジン」を創製した。尿細管での糖の再吸収を阻害するため、糖が尿として排泄される効果がある。カナグリフロジンは米ジョンソン・エンド・ジョンソンの子会社、ヤンセンファーマシューティカルズに導出され、ヤンセンファーマが米食品医薬品局(FDA)に申請。昨年、承認され、「インヴォカナ」の製品名で発売された最初のSGLT2阻害剤だ。カナグリフロジンで田辺三菱は日本薬学会から創薬科学賞を受賞したが、日本でも「カナグル」の名前で昨年申請。近々承認、発売される見通しだ。2型糖尿病治療剤はDPP4阻害剤からSGLT2阻害剤に変わる、あるいは、DPP4阻害剤との併用に進むとみられるだけにレミケードと同様の大もうけが期待できる。

 カナグリフロジンの登場は土屋社長にとって社長交代の絶好の好機だった。さらに「負の遺産」も清算できた。負の遺産とは旧ミドリ十字に始まる血液事業だ。同社の前身は、戦時中、細菌兵器による人体実験を行ったことで知られる「731部隊」の石井四郎軍医中将の部下たちが設立した「日本ブラッドバンク」という血液製剤会社だ。血液製剤技術はピカイチだったが、売血に頼ったためC型肝炎患者の大量発生や薬害エイズ事件を引き起こしたという暗い過去を持つ。そのイメージを薄めるために、厚生労働省は吉富製薬と合併させてミドリ十字の社名を消し、さらに三菱化学の製薬部門と東京田辺製薬との合併会社、三菱東京製薬と合併させて三菱ウェルファーマを誕生させた。この三菱ウェルファーマと田辺製薬が合併したのが田辺三菱で、もはやどこにもミドリ十字の陰は見えない。しかも旧ミドリ十字の血液事業はべネシスとバイファという子会社に押し込めた。

 しかし、バイファがヒト血清アルブミン製剤「メドウェイ」の承認申請で試験データを改ざんしたことが11年1月に発覚。この事件で田辺三菱は同年2月、日本製薬工業協会を自主退会した。不祥事後、赤字のべネシスを日本赤十字の血液事業と合併させ、一般社団法人日本血液製剤機構(JBPO)に変わった。バイファ問題は調査委員会による調査結果が発表され、田辺三菱は改善に取り組むことを約束。同社を覆っていた旧ミドリ十字の暗いイメージをほぼ一掃した。負の遺産を解消したことも社長の座を渡せる理由になったという。

「スモン」と「薬害エイズ」の合併

 土屋社長の出身である旧田辺製薬も無傷だったわけではない。同社は武田薬品、塩野義製薬と共に〝御三家〟と呼ばれた名門だったが、60年代後半に整腸剤「キノホルム」の副作用で神経障害を起こすスモン病を大量に発生させる薬害事件を起こした。裁判で田辺製薬は巨額の和解金を支払う羽目になり、同社は資金不足から画期的な新薬を出せず、人材も流出。窮地を脱するために資金が豊富な大正製薬との統合を決めるが、社内から批判が噴出。統合は破談になる。この田辺製薬の名門意識を満足させたのが三菱ウェルファーマとの合併だったのだ。薬剤エイズやC型肝炎の古傷を引きずっていても、社長を譲ってくれ、旧財閥系というブランドに満足できた。こうして誕生したのが田辺三菱だ。

 製薬業界では「スモンと薬害エイズの合併」などと陰口をたたかれたが、新生・田辺三菱は自信を取り戻した。そして生まれたのがテネリアやレミケードである。レミケードは当初、クローン病、ベーチェット病の難治性網膜ぶどう膜炎治療剤としてオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の指定を受けるというな姑息な方法だったが、研究を続けていた種が花開いた。レミケードがなかったら、負の遺産を乗り越えられなかっただろう。

 もちろん、かつては御三家と呼ばれた田辺製薬であり、ミドリ十字、吉富製薬、三菱化学の医薬品部門、東京田辺製薬の寄り合い所帯の三菱ウェルファーマである。医薬品の数は多い。自己免疫疾患治療剤のレミケードを筆頭に、糖尿病・腎臓疾患治療剤にはテネリアや「アンプラーグ」「クレメジン」「ヘルベッサー」「ノバスタン」、さらに抹消循環や脳循環、精神・神経、皮膚、消化器向けの医薬品と数多く並ぶ。OTC薬(一般用医薬品)にもスイッチOTC薬(医療用医薬品の成分を一般用医薬品に転用〈スイッチ〉したもの)の「フルコートf」や「アスパラドリンク」「タナベ胃腸薬」など名前の知られた製品も多い。

 パイプラインも自己創製や導入品などそろっている。例えば、米エンヴィヴォ社から導入したアルツハイマー治療剤「MT‐4666」はフェーズⅢに入った。ハンガリーから導入した統合失調症治療剤「カリプラジン」や自社開発の糖尿病腎症治療剤「MT‐3995」、カナダの子会社が持つインフルエンザワクチンにも力を入れている。

海外での開発力と販売力がない

 だが、もともと創薬力のある田辺製薬と技術力のある三菱系にもかかわらず、武田薬品や大塚製薬、アステラス、第一三共、あるいはエーザイなどの後塵を拝している方がみっともない。その弱点は海外展開力がないこと。テネリアでさえ、目下、欧州、米国で開発段階だ。欧米で承認されたころには後発品が席巻しているかもしれない。カナグリフロジンも自社オリジンにもかかわらず、ヤンセンファーマに導出し、FDAの承認を受けている状態。唯一の例外は旧ミドリ十字の血を受け継いでつくられた遺伝子組み換えヒト血清アルブミンだけだ。基本的に海外での開発力も販売力も薄弱なのである。これではアリセプトで一挙に大手製薬にのし上がったエーザイのような活力もなければ挑戦する意欲も劣っている。

 その上、カナグリフロジンの米国での承認は運が良かったにすぎない。同じSGLT2阻害剤であるブリストル・マイヤーズ・スクイブとアストラゼネカの「ダパグリフロジン」は欧州では承認されたが、乳がんとぼうこうがんの副作用リスクが高まる可能性が示唆されたことからFDAの諮問委員会は当初承認しなかった。カナグリフロジンにも泌尿器と生殖器の感染症が増加するという副作用リスクが指摘されたが、問題とされなかった。諮問委員会ではがんと循環器障害に神経質であることが有利に働いた。

 日本でもカナグリフロジンはレミケードに続く大型商品になるとみられる。だが、アストラゼネカはダパグリフロジンの日本での承認を目指して開発中だし、中外製薬は「トホグリフリジン」、アステラス製薬は「イブラグリフロジン」、べーリンガーインゲルハイムとイーライリリーは「エンパグリフロジン」と、同種のSGLT2阻害剤を開発中ですでにフェーズⅢに入っている。田辺三菱が独占できるのはわずか1、2年にすぎない。

 田辺三菱は5月、中期経営計画の目標を引き下げた。最終年度の15年度の売り上げ5000億円、営業利益1000億円の目標を、それぞれ4100億円、650億円に減額。土屋社長は修正理由を「後発薬の普及促進の状況と新薬創出を続けることのハードルの高さ」を挙げた。海外ではファイザーの英アストラゼネカの巨額買収提案が話題になっている折、新薬創出と積極経営が続かないとまたまた合併への道を歩みかねない。

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