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ヤクルト本社

ヤクルト本社
ダノン対策に明け暮れた結果 医薬品事業は収益低下

 ヤクルトはいまだに背負っている〝荷物〟を気にしなければならない状態が続いている。荷物とは20・6%の株を持つフランスの大手食品メーカー、ダノンである。株式を買い増ししてヤクルトを完全子会社化したいダノンに対し、独立経営を維持したいヤクルトは買い増しに徹底抗戦。ダノンとヤクルトは角を突き合わせていたが、2004年に業務提携を結んだ。ヤクルトはダノンから役員3人を受け入れ、共同で事業を行う代わりに、ダノンは12年5月まで株式を買い増さないという内容の〝休戦協定〟だった。

 提携を結んだとはいえ、ヤクルト経営陣は経営にくちばしを入れられることや、こっそり株式買い増しを行うのではないかと警戒しなければならず、思い切った経営ができなかった。その提携を昨年4月、解消した。表向きは国内事業で提携効果がないこととされたが、ダノンからの干渉を排した経営をしたいということだった。だが、休戦協定がなくなった以上、いつダノンが株式買い増しを行うかも知れず、常に大株主の動向を気にしながらの経営をせざるを得ない状況が1年以上続いている。結果、ヤクルトの利益を支えていた医薬品事業にも暗雲が垂れ込めている。

財テクの失敗が付け入る隙を与える  ヤクルトとダノンとの確執は00年に突如、ダノンが5%の株式を保有する大株主として登場した時から始まっているから、ざっと14年にも及ぶ。株式取得の前に相談がなかったということもあるが、ダノンが資本の論理で株式を買い集め、20%に及ぶと、もはや放っておくわけにはいかなくなり、業務提携を結ぶことで、とりあえず買い増しをストップさせるしかなかった。以来、望まない大株主はヤクルト経営陣の重荷になった。

 ダノンの登場はヤクルト自身が隙をつくった結果でもある。創業は故・代田稔博士が乳酸菌の一つ、シロタ株を発見し、乳酸菌飲料として発売したことから始まる。その乳酸菌飲料会社を大きくしたのがオーナーに納まった故・松園尚巳氏だ。その方法がユニークだった。松園氏は日本地図に線を引いて分割、「このテリトリーは誰それの販売地域、こちらの縄張りは誰それの販売地域」と各テリトリーを販売した。その販売先が今に残る販社だ。当時、世間はこのビジネスにアッケに取られた。その後、松園氏の元仲間たちが同じような手法でビジネスを始めたが、先駆者のヤクルトだけが生き残り、事業を大きくした。日本地図に勝手に線を引いて空間を売るこんなビジネスは一社でたくさんだということだろう。

 ヤクルトがダノンに狙われた原因は財テクの失敗だ。バブル時代に積極的に財テクに乗り出し、バブル崩壊で巨額の赤字を出した。当時は多くの会社が財テクに夢中になった時代だけにヤクルトだけを責めるわけにはいかない。ヤクルトはその損失を隠すためにクレスベール証券が販売した「プリンストン債」を購入した。これこそまさに体質そのものだ。プリンストン債は長期間持っていれば損失を回復できるとうたい、専ら財テクの損失隠しに四苦八苦する会社に販売した詐欺同然の商品で、購入した会社はことごとく損失を重ねた。

 ヤクルトでプリンストン債投資にまい進したのは、安倍晋三首相の父君、故・安倍晋太郎氏が国税庁からスカウトしヤクルトに紹介、財務担当副社長に抜擢された熊谷直樹氏だった。キッセイ薬品や東和薬品もプリンストン債を購入したが、ヤクルトの購入額は巨額だったし、熊谷副社長がクレスベール証券から5億3000万円ものリベートを受け取っていたことでも大騒ぎになった。

業務提携・解消のダッチロール  むろん、株価は急落した。その隙を突いたのがダノンである。ヨーグルトで知られる世界的巨大食品企業だ。日本でも「ダノンビオ」の名前のヨーグルト製品をスーパーで大量に販売し、主にヤクルトレディによる販売に頼るヤクルトとはライバル関係にある。そのダノンが日本市場席巻のためか、00年に5%の大株主として登場。その後も株を買い集め、04年には20・6%に達し筆頭株主になった。むろん、狙いはヤクルトの買収とみられ、ヤクルト経営陣は徹底抗戦を叫び、対立が激化。1年間、丁々発止のやりとりの後、05年に双方が協業を進め、ヤクルトはダノンから役員3人(うち非常勤役員2人)を受け入れる代わりにダノンは株を買い増ししないという内容の業務提携を結んだ。もっとも、したたかなダノンは契約に7年後の12年5月以降は35%まで買い増しできるという項目を入れている。

 しかし、提携で仲直りしたわけではない。ヤクルトは株を買い占められないようにという目的だから協業など進まない。ベトナムとインドで両社が合弁会社を設立、ヤクルト製品を販売したくらいで、国内で協力したなどという話はない。当然、12年からダノンは株買い増しや非常勤役員を常勤役員にすること、国内、海外での関係強化を要求しだした。

 株買占めを阻止したいだけのヤクルトは全て拒否し、提携解消を選んだ。ヤクルト経営陣は資本の論理で押してくるダノンを徹底的に拒否することにとしていたのだ。本業の拡大や化粧品、医薬品事業に力を入れる余裕すらなかったといえる。むろん、提携解消後はいつ何時、株を買い増しされるか気が気ではない。株価が下がると、兜町ではダノンの買い増しがうわさされ、株価は上昇に転じる状態である。株価が下がらないように、また大株主がダノンに株を売却したりしないように対策を取り続けなければならないのだ。その対策の第1弾が昨年8月に行った330億円の自社株買いだ。実際には今日のヤクルトを築き上げた松園家の資産管理会社「松尚」の保有株を買い取ったものだ。ヤクルトにとっては大株主の保有株がダノンに売却されないようにというものだ。

 さらに、昨年11月には乳酸菌飲料「ヤクルト」を値上げした。実に22年ぶりの値上げである。理由は「円安により樹脂容器材料が高騰したこともあり、乳酸菌の菌数を増やして商品価値を上げた」と発表したが、株式アナリストたちは「ポリスチレンの値上がりなどたいした金額ではない。本心は収益を改善して高株価を維持するため」とみている。加えて、配当を1円増やし、年24円にした。この増配もあって同社の株価は5000円前後を推移している。同業と見なされる明治ホールディングス(HD)と比較すると、株価では一歩譲るが、PER(株価収益率)は41倍に達し、明治HDの倍だ。かなり高値の株価といえる。それはとりもなおさず、ヤクルト経営陣にとっては株価を高値で維持しなければ、大株主や販社がダノンに株を売りかねないという不安を抱えていることを意味する。

強みのがん特化が弱みに変わる  ヤクルトの苦悩が医薬品事業に影響しないはずはない。ヤクルトの医薬品はがん領域に特化したもので、ヤクルトの国内飲料・食品の売り上げ全体の2割程度だが、利益は半分を稼ぎ出してきた。その医薬品事業に黄信号が灯っているのである。

 具体的に挙げれば、14年3月期第2四半期(13年4〜9月)の医薬品部門の業績は売上高が対前年同期比12・3%減の156億円、営業利益も13・6%減の27億円と急ブレーキがかかっていたが、さらに第3四半期累計(13年4〜12月)でも売上高は対前年同期比8%減の249億円。営業利益も同9・2%減の54億円と減少傾向に歯止めがかかっていない。ヤクルト全体ではアジア、米州での伸長で売り上げ、利益とも前年を上回っているが、医薬品事業だけが大きく落ち込んでいるのである。4年前、ヤクルトは医薬品事業の目標を「13年度に売り上げ460億円、営業利益145億円」と語っていたが、今や目標は遠い存在になってしまった。

 この医薬品事業の低迷は、同社の強みであったがん特化が弱みに変わったことが理由に挙げられる。ヤクルトの抗がん剤は大腸がん分野だが、その大腸がん治療が、ヤクルトの主力医薬品の「エルプラット」を使う標準療法から新規分子標的薬に替わってきているのだ。ヤクルトは使用拡大を求めて、エルプラットを使った術後補助化学療法を医師向け講演会や説明会で繰り返し訴えたが、現実にはそれほど大きく伸びることはなかった。

 12月には急性リンパ性白血病治療剤のイマチニブ後発品が薬価収載されたが、売り上げをさほど改善するわけではない。パイプラインには共同開発、導入品などいくつか散見されるが、医薬品の売り上げの7割を稼ぎ出していたエルプラットを超える抗がん剤になるかどうかおぼつかない。

 本来なら、国内飲料・食品の2割の売り上げで半分の営業利益を稼ぎ出す医薬品事業に思い切ったてこ入れをするはずだが、堀澄也会長、根岸孝成社長をトップにする経営陣はダノン対策に明け暮れてきた。そのツケが今、医薬品事業の収益低下となって現われているといえる。

 もちろん、ヤクルトがダノンに買収されたら、不採算のヤクルト球団や化粧品部門は切り売りされるだろう。医薬品部門とて無傷ではいられない。エルプラットに代わる新薬が登場しないと、ドライな外資は売却しないとも限らない。当分の間、ヤクルトはダノンの動向に神経を使いながらも、医薬品事業を強化しなければ、高株価を維持できないし、ダノンに対抗できないだろう。

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