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小林製薬

小林製薬
インテリジェンスの欠如が招いた 度重なる経営戦略の失態

 OTC薬(大衆薬)メーカーの小林製薬にとって2013年は最悪の年だった。同社はOTC薬メーカーとして初めて医薬品のネット販売を始めたものの、ドラッグストア業界から猛反発を受け、中止を余儀なくされたのに続き、新成分を使ったOTC薬開発の臨床試験で治験支援会社(SMO)と治験実施病院にだまされ、新薬開発が頓挫するという二つの事業でつまずいたからだ。

 同社は〝あったらいいな〟というテレビCMでおなじみのOTC薬や医薬部外品、サプリメントのメーカーだ。必要不可欠な医薬品というより、CM通りあったら便利な商品を数多く送り出し、重宝がられてきた。

 だが、〝あったらいいな〟のノリで、OTC薬ネット販売と新薬開発に挑戦したのが失敗。OTC薬とはいえ、医薬品業界はそうそう甘くないということを思い知らされた格好だ。

時流に反した「ネット販売中止」の誤算  ともかく、小林製薬がOTC薬のネット販売を始めたのは、2012年9月だった。同社はロート製薬、大正製薬と共にサプリメントのネット販売、通信販売を行っている。サプリメントは毎日飲むものをまとめて1カ月分も瓶詰めし、安くても3000円台、高いものは1万円で販売するから、売り上げは大きいし、利益も大きい。サプリメント業者が乱立するのはそんな事情からだが、小林製薬もサプリメントから化粧品、育毛液と商品を広げ、売り上げは100億円を突破。有力な事業に成長している。さらに戦略事業と位置付けて拡大を模索。OTC薬4品目のネット販売に乗り出した。4品目とはビタミン剤の「コバラミンEX」、コレステロール改善薬の「コレスチトールa」、関節痛と腰痛緩和薬の「アンメルシンコンドロパワー錠」、納豆菌と乳酸菌を含む整腸薬「コバガード」で、どれも第三類医薬品で、サプリメントに近いものだった。小林製薬は「4品目は薬局やドラッグストアに卸しているOTC薬とは違う新商品だ」と強調した。発表時、小林豊社長(当時)は「当社の通販会員50万人の大半が50歳以上の中高年層で、早くから医薬品の販売を望んでいる。その要望に応えることで新しい市場を開拓したい」と説明。当時の薬事法の政令でも第三類医薬品はネット販売を認めていたし、薬局やドラッグストアで売られるOTC薬とは別仕立てだからなんら問題はないと考えていたようだ。

 ところが、ドラッグストアの共同仕入れ会社の一つ、ニッドが反発。質問状を送付し、ネット販売に異を唱えたのである。「ネット販売用の独自商品だというが、医薬品は商品名ではなく、成分で分類するものだ。成分を照らし合わせれば、ネット商品のコバラミンと同じ成分のOTC薬をメコラミンの名前で販売している。他の3品目も同様だ。そもそも医薬品メーカーが自社製品をネット販売するのは薬局、小売店への背信行為ではないか」というのだ。しかも、運の悪いことに医薬品のネット販売の是非をめぐって薬剤師会やドラッグストア業界がネット販売規制の維持を訴えている最中。ニッドの呼び掛けにドラッグストアが同調する騒ぎになってしまった。

 小林製薬は必死に理解を求めたが、話し合いは平行線。製品ボイコットに発展するのを恐れ、12年12月末にネット販売を中止せざるを得なくなった。その直後の13年1月、ネット販売業者のケンコーコムとウェルネットが厚生労働省を相手取って起こしていた裁判で、最高裁が「薬事法で規制していないことを省令で禁止するのは違法」という判決を出した。加えて、6月には安倍晋三首相が3本目の矢である経済政策として医薬品のネット販売解禁を打ち出した。これを境に大手ドラッグストアやネット販売業者が一斉に医薬品のネット販売に走り、混乱状態になっている。ネット販売を取りやめた小林製薬にとっては大誤算だった。

 大正製薬が北海道でOTC薬のネット販売をテストしたことがある。そのとき、道内の薬局、ドラッグストアが大反対し、大正製薬は中止した。小林製薬はこの事例をつかんでいながら、「省令でネット販売を認められている第三類医薬品であり、市販とは違う通販用の新製品だから問題ないはずだ」と安直に考えていた節がある。裁判の状況や安倍内閣の「規制改革会議」にネット販売規制反対を強硬に主張する楽天の三木谷浩社長が加わっていることなどを分析すれば、ネット解禁を見通せたし、開始の時期を遅らせることもできただろう。「他社よりも早く」という独り善がりの営業政策が道を誤らせたというしかない。

治験データ改ざん疑惑で薬申請を却下  もっと強烈な判断不足を露呈したのがOTC薬として開発していた肥満治療薬の治験失敗だ。効果がなかったという理由での失敗ならまだしも、治験を依頼した治験支援会社(SMO)と治験実施病院が数字をごまかしていたことが表面化し、開発中止に追い込まれたのだからみっともない。

 ある幹部は「糖尿病だけでなく世の中にはダイエットを望む人は多い。新薬メーカーも肥満治療薬を開発研究している。当社もナイシトールという肥満緩和薬を販売しているが、さらに自信を持てるOTC薬を開発した。しかし、実は、既に承認されている成分でOTC薬を作ってきたから治験を行った経験がない。だから、人づてに紹介された大手SMOのサイトサポート・インスティテュート(SSI)という会社に依頼した」と言う。

 SSIが用意した治験病院が大阪の千本病院。10年4月から11年3月まで治験を実施した。小林製薬はSSIに任せて治験結果を受け取ったが、「治験に必要な72人のうち、治験者が集まらなかったため、病院職員を治験者に仕立てた。そのうち4人は肥満度が不足していたので身長を実際より低くしてごまかした」という内部告発がマスコミに寄せられたのである。驚いた小林製薬が治験支援会社と病院に問い合わせると、内部告発は事実だった。だが、千本病院は当時の院長と治験担当医は退職していて経緯は不明といい、治験を主導したSSIは事実を調査すると伝えたものの、担当者がすでに退社して詳細は不明とウヤムヤにされている。当然、肥満治療薬は開発中止。小林製薬は体よく治験費用を巻き上げられた格好だ。

 小林製薬は被害者だが、治験は初めてとはいえ、製薬会社である。独自に調査するなり、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に相談するなりできたはずだし、大阪の千本病院が過去に治験を行った経験を持っているかどうかなど、同じ大阪に本社を置く小林製薬なら容易に分かるはずだ。これも情報収集の抜かりであり分析不足の結果である。

 なぜこんなことが起こってしまうのか。

 小林製薬は13年にオーナー家の小林章浩氏が6代目社長に就任したが、創業は1886年(明治19年)に名古屋で始めた雑貨屋だという。その後、製薬業に進出し、1919年(大正8年)に株式会社「小林大薬房」を大阪市西区京町堀に創立したのが始まりで、小林吉太郎が初代社長に就任した。道修町に移ったのは戦後の56年。周囲は新薬メーカーがひしめくが、小林製薬はそういう新薬ともジェネリック医薬品とも無縁だった。専らOTC薬と医薬部外品、日用品のメーカーに徹している。成功したのは67年に売り出した肩こりに効く消炎鎮痛薬「アンメルツ」と69年に発売したトイレ用芳香洗浄剤「ブルーレット」のヒットだ。その後も芳香剤の「サワデー」や冷蔵庫向け脱臭剤「キムコ」、入れ歯洗浄剤「タフデント」、熱冷却シート「熱さまシート」、肥満症改善薬「ナイシトールG」等々、アイデア商品を生み出している。ほとんどが第二類、第三類医薬品か衛生品というべき医薬部外品。唯一の第一類医薬品は田辺三菱製薬が開発した膣カンジダ再発治療剤「オキナゾール」のOEM品である「フェミニーナ」だけ。そんな「あったらいいな」を地で行くアイデア商品を次々に発売する特異な製薬メーカーだ。

付け入りやすい和気あいあいの社風  実際、小林豊前社長は「社内には〝全社員提案制度〟があり、全ての社員が新商品や社内改善のアイデアを出し合っている。優れたアイデアには金一封を出すし、ポイント制も導入し年1回集計して200ポイントに達した社員は社長とホテルで豪華ディナーを楽しむことになっている。それに社内では社長、会長以下、全員が『さん』付けで呼び合っている。おかげで社内は和気あいあいとした雰囲気で、全社員が良いアイデアを出そうと努力している」と語っている。同社のアイデア商品はこうした環境下で生まれるらしい。

 全社員がアイデア商品を生み出すことに熱中している間に、生き馬の目を抜く外の世界の厳しさを忘れてしまったようだ。日立造船から「杜仲茶」を譲り受けたり、笹岡薬品から女性用更年期障害保健薬「命の母」の独占販売権を取得して販売したり、アロエ製薬を買収して便秘薬を手に入れたりして事業を広げてはいる。だが、新規事業展開のために必要な駆け引きや交渉力に欠けていた。相手にとってはだましやすいということになる。

 医薬品のネット販売では自信過剰に陥り、開始時期を見誤った。肥満薬の治験でだまされたのも同様だ。治験支援会社には金もうけのために病院を乗っ取ろうとする業者もいるし、医師にクリニックを開かせて食品会社や化粧品会社から治験を受託することをビジネスにする輩もいる。SMOと治験実施病院の情報を取らずに依頼してしまった。「あったらいいな」というアイデアは重要だが、インテリジェンス(情報)も必要なのだ。

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