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第41回 長谷川閑史の「関心」の外で停滞する国内研究開発

第41回 長谷川閑史の「関心」の外で停滞する国内研究開発
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
長谷川閑史の「関心」の外で停滞する国内研究開発

 「保守」「タカ派」とレッテルを張られがちな安倍晋三首相。だが、意外にも推進する政策には「日本版〜」と銘打たれたものが少なくない。

 自身のライフワークともいえるのが「日本版国家安全保障会議(NSC)」の設置だ。安全保障・外交を得意分野とする安倍氏らしい。

 さらには「成長戦略」の柱と頼みにするのが「日本版米国立衛生研究所(NIH)」。武田薬品工業社長であり、経済同友会代表幹事の任にもある長谷川閑史がむやみにこれを持ち上げている。本誌が再三指摘してきた通りだ。

と関係なく売り上げ1000億円減
 もっとも、同友会の定例記者会見で日本版NIHに触れる機会はめっきり減っている。今年6月、産業競争力会議が取りまとめた成長戦略の成案についてコメントして以来、言及はない。

 政治ごっこにかまけるあまり忘れてしまったのか。本心ではそれほど興味がなかったのか。

 だが、長谷川らしさは相変わらずだ。

 〈私が身を置く(製薬)業界はあまり業績が景気に左右されないため、肌感覚は特にない〉

 10月1日の会見での発言だ。業績が景気によって左右されない以上、1000億円も売り上げを減らしたのは長谷川が純粋に無能だからか。この程度のトップを担ぐ同友会と武田に衷心から同情の念を禁じ得ない。人材払底ここに極まれりだ。

 長谷川が失念したふりをしようが、日本版NIHに肩入れした過去は払拭しようがない。今年8月に内閣に設置された〈医療分野の研究開発の司令塔の本部〉(首相官邸ウェブサイトより)である「健康・医療戦略推進本部」を舞台に議論は進んでいる。この10月からは「医療分野の研究開発に関する専門調査会」(永井良三座長)が発足。すでに2回の会合を開催している。

 委員の顔ぶれを見てみることにしよう。

 ▽大澤真木子(東京女子医科大学名誉教授)▽垣添忠生(日本対がん協会会長)▽菊地眞(医療機器センター理事長)▽榊佳之(豊橋技術科学大学学長)▽笹月健彦(九州大学高等研究院特別主幹教授)▽清水孝雄(国立国際医療研究センター理事・研究所長)▽竹中登一(ヒューマンサイエンス振興財団会長)▽田中紘一(神戸国際フロンティアメディカルセンター理事長)▽永井良三(自治医科大学学長)▽平野俊夫(総合科学技術会議有識者議員)──いかがだろうか。「旧来型」の域を一歩も出るものではあるまい。

 日本の研究開発を少しでもまともにすることを考えるなら、今すぐ日本版NIH構想などやめることだ。前号ではそのための一石として最も重要で、かつ困難な人材育成について考えてみた。

 「国内の現状を見る限り、産業論やR&D論、厚生論で世界と結び付いた科学者や実務者、ノウハウがうまく機能しているとはとてもいえない。ただし、ゼロでもありません」(国立大学教員)

必要な人材のリストアップもできず
 各大学にも起業支援のための拠点は設けられている。若い層も含め、特許の取得などを身に付けた人材が育ってきてはいる。日本が右肩下がりとはいわない。だが、創薬が可能な先進諸国が右肩上がりの中、まずまずという線にとどまっている。

 「基礎的な自然科学に関してはそれなりの成果を挙げています。その点に関しては何ら卑下する必要はない。ただ、その成果を臨床や上市、国益にまで結び付けていく役割を担う分野があまりに貧弱です。一言で言って情けない。人材層は薄いし、修練も足りません。下降はしていませんが、上昇の『角度』が違う。米国が10度だとすれば、日本は1度というところでしょうか」(同前)

 研究開発を推進していく上で必要な人材は一通りではない。それをリストアップするような作業さえまともに行われていないのではないか。

 「例えば、特許に精通する人材。これは時々上がってくる。一般の認識も進んでいます。さらに所管官庁のルールを知っている必要もある。この点への理解も広がっています。他にも必要な資質はある。例を一つ挙げれば、基礎と臨床が両方分かる人。これは口でいうほど簡単なものではない。医師に聞けば、多くが『いや、俺は分かっている』と答えるでしょう。でも、その通りであれば、米国にこれほど水をあけられるはずがない。あとは研究をビジネス化する力。これも巷間よく耳にします。では、そういう人材の層が日本はどれくらいなのか。個々の能力はどれほどのものなのか。この分野で世界各国の状況はどうなっていて、彼らは国内にとどまりたいのか、海外に飛び出したいのか──。例えば、こんな話を個別に詰めてはいないでしょう」(厚生労働省OB)

 新聞辞令では「ビジネス化できる人材が必要だ。以上」でも済む。だが、現実の世界ではそうはいかない。統計学にどの程度通じていればいいのか。財務諸表はどこまで読めればいいのか。そんな議論をこの国の研究開発周辺で聞いたことがない。

 「大学の教員でも同じことです。例えば、レギュラトリーサイエンスを教える講座が必要です。そこに籍を置く教員たちは何を知っていればいいのか。薬事法の条文なのか、行政手続法の概略なのか、経済学の基礎知識なのか。そもそもそうした人材が国内に何人存在するのか。将来にわたって何人必要になるのか。こうした具体性は全くないといっていいでしょう」(同前)

 一方でこんな見方もある。

 「最近の傾向として患者組織が増え、多様化してきています。声も大きくなってきた。もしかすると、日本の研究開発社会に裂け目を作り、障壁を突破する推進力となるのは彼らの存在かもしれません。いろんな個性の人がいますが、言いたいことはきちんと言っている」(同前)

 武田はこうした環境にどこまで自覚的なのだろうか。役所とはうまく付き合いながら、海外に活路を求める。そんな二律背反的な行動は今後も続くのか。日本版NIHとは全く無関係に日本の製薬企業や大学は停滞を余儀なくされている。現在のところ、即効性のある対策は見当たらない。国内首位の看板は今日も泣いている。

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