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帝人

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共に創業家・中興の祖に振り回されキョーリンとの「復縁」の行

 帝人がキョーリン製薬ホールディングス(HD)の発行済み株式の10%に当たる759万株を創業家一族から取得した。1株当たり2439円で、総額185億円の買い物だ。保有株を手放したのは元キョーリン製薬会長の荻原弘子氏ら創業家一族と弘子氏が代表を務める持株会社2社。帝人とキョーリン製薬は10年前に統合に合意したが、創業家の都合で破談になった経緯がある。それだけに帝人にとってキョーリン製薬株取得は「念願」の実現だ。株取得には、荻原家側の意向で「議決権を行使する場合は共同歩調を取る」という合意が付いているが、それも前回のようなことにならないことを願って低姿勢に出たものらしい。

 帝人は「両社で研究開発、生産、販売・物流の各分野で、戦略的提携関係が構築できることを期待している」と、エールを送っている。それというのも目下の帝人は業績下方修正の連続で、「ヘルスケア」と呼ぶ製薬事業が最も安定的な売り上げを稼ぎ、収益を支える柱になっているからだ。

キョーリン創業家の都合で統合撤回

 帝人のキョーリン製薬HD株式取得の報に接して、キョーリン製薬幹部は「創業家が保有株を譲渡する意向だったとは知らなかった」と語ったが、同社社員にとっては、荻原家より帝人に大株主になってもらった方がましかもしれない。何しろ、医薬品事業を分離して帝人ファーマを設立した帝人とキョーリン製薬(当時は杏林製薬)は2003年1月に統合を発表した。骨代謝関連に強みを持ち呼吸器関連も手掛ける帝人ファーマと、気管支喘息治療剤や過活動膀胱治療剤、抗菌剤を得意分野とするキョーリン製薬との統合はスペシャリティーを持つ製薬メーカーの誕生と期待された。

 そんなところに起こったのが「ガチフロ事件」だ。キョーリン製薬の抗菌剤「ガチフロ」に副作用問題が発生。キョーリン製薬の株価は急落した。すると、統合発表からわずか3カ月後に突然、キョーリン製薬は統合を撤回した。帝人側はとしたが、キョーリン製薬の創業家一族が「こんな安い株価で保有株を手放したらからない」と言いだして統合を白紙撤回してしまったといわれている。帝人との統合を進めてきたのは創業者の娘である弘子氏の婿、荻原郁夫社長だったが、統合撤回後、社長を辞任、離婚し退社している。

 製薬業界では「男勝りの弘子元会長が統合を進めた郁夫氏を離縁し、追い出した」と信じられている。研究開発に努力するキョーリン製薬社員とは対照的に、創業家は金儲けにうつつを抜かしているかのようだ。弘子氏は兜町で仕手筋とされた投資会社に株買い占め資金を提供したり、不動産会社への株投資で大儲けしたりしている。さらに女占い師から大儲けできると持ち掛けられた不動産投資話にだまされて大損したりもしている。その一方、ファンドから株を取得したジェネリックメーカーの沢井製薬から合併を持ち掛けられると、一族が結束して反対。沢井製薬に合併を諦めさせている。キョーリン製薬社員にとっては、こういう振り回される創業家の行動は傍迷惑だった。

がんでもあった帝人中興の祖・大屋夫妻

 それはともかく、帝人にとっては「念願」に一歩近づいたといえる。力を入れてきた医薬品事業をさらに拡大できるからだ。帝人は中興の祖であり、〝がん〟ともいわれた大屋晋三・政子社長夫妻を抜きには語れない。周知のように、帝人は大正時代に山形県米沢市で創業された鈴木商店系の繊維会社が発祥だ。その後、大阪に移り、社名も帝国人造絹絲、さらに帝人に変わったが、戦後、ナイロンの流入で、同社は衰退。そのときに商工大臣、大蔵大臣、運輸大臣を歴任した大屋氏が「テトロン」を導入、瞬く間に帝人を復活させた。しかし、「生涯現役社長」と言いだしてワンマン経営を続け、多角化に乗り出したのが失敗。さらに「略奪婚」で夫人に納まった政子氏が経営にくちばしを入れたことなども加わり、経営は再び悪化。政子夫人は愛嬌のある人物だが、年甲斐もなくピンクの派手なシャツにショートスカート姿でゴルフにテレビに登場、「うちのおとうちゃん」と叫ぶたび、社員は恥ずかしい思いをした。大屋氏の死後、帝人は社長の任期制限を導入したりして二度とワンマン経営が起こらないようにしたほどで、大屋氏が残した多角化事業の整理に追われた。東レが炭素繊維に代表されるように各部門に秀でたメーカーに成長したのに比べ、帝人はどれを取っても二番手以下のメーカーになってしまった。

 今の帝人は高機能繊維・複合材料、電子材料・化成品、医薬品、製品流通が4本柱だが、経営状態は低迷している。13年3月期に限っても、4回も業績を下方修正している。昨年、5月に12年度の業績見通しを発表したが、8月には「中期経営計画」で修正した後、11月には2度目の下方修正を行い、今年2月には3度目の下方修正。その2カ月後の4月には4度目の下方修正を行った。

 この4度の下方修正で当初の売り上げ8400億円、純利益220億円の予想が、売り上げ7400億円、最終損益は300億円の赤字に変わってしまった。4度目の下方修正では、炭素繊維の東邦テナックス買収で残っていたのはれん代170億円、米国の在宅医療会社、ブレイデン・パートナーズ買収で生じたのれん代50億円を思い切って一気に処理したのは評価されるとしても、4度も下方修正したのは前代未聞。証券アナリストも「レーティングの付けようがない」とさじを投げ出す。高機能繊維も化成品事業も市場でトップではないため、市況が悪化すると、業績にまともに響いてしまう弱さがある。

 そんな中で唯一安定的に利益を稼ぎ出しているのがヘルスケア部門の帝人ファーマだ。売り上げは1383億円(13年3月期)、営業利益は248億円で営業赤字の高機能繊維や化成品の利益減を埋めている。それだけに同社への期待は大きい。

 ヘルスケア部門は主に骨代謝領域、呼吸器領域、代謝・循環器領域、さらに医療機器で、帝人ファーマらしい特長を持っている。例えば、骨領域では骨粗しょう症治療剤の「ボナロン(一般名アレンドロン酸ナトリウム)」と自社創製のビタミンD3製剤の「ワンアルファ」を持ち、整形外科分野に強い。骨粗しょう症患者は国内に1200万人もいるといわれ、超高齢社会でさらに患者数が増加すると見られるが、競争が激しく、ボナロンの売り上げは159億円と伸び悩んでいる。しかし、帝人ファーマは点滴静注バッグ、経口ゼリー剤と矢継ぎ早に承認を取得、使いやすさで増大を求め続ける努力をしているのには感心する。

 呼吸器領域ではステロイド系の喘息治療剤の「オルベスコ」、抗コリン性気管支収縮抑制剤「アトロベント」、剤「ムコソルバン」などを持っているが、今一歩のものばかり。呼吸器に強いキョーリン製薬との提携に進めば、呼吸器分野でリーディングカンパニーになれる期待が膨らむ。

 だが、それよりも、帝人ファーマの特長を示しているのは代謝・循環器領域だ。中でも成功例は「ぜいたく病」「美食家の病気」などといわれる通風・高尿酸血症の治療剤「フェブリク(一般名フェブキソスタット)」の開発。昨年、日本薬学会から「創薬科学賞」を受賞した新薬だ。もちろん、帝人ファーマのオリジンで、アメリカでは武田薬品工業の米子会社、ヨーロッパではフランスのイプセン社に導出し、全世界で1000億円を売り上げる大型商品だが、海外販売網を持っていなかった帝人ファーマ自身のフェブリクの売り上げはまだ55億円。今後、さらに売上増が見込める。

期待の帝人ファーマは資金力に難

 一方、新薬候補はフェーズⅡが5品目、フェーズⅠは2品目にとどまっている。イプセン社から導入した2型糖尿病治療剤と骨粗しょう症治療剤、山梨大教授と横浜市立みなと赤十字病院副院長が発見し、創製された椎間板ヘルニア治療剤が有望視されているが、パイプラインがこれだけではまだ心もとない。もちろん、帝人ファーマは外国企業との提携、新薬候補の導入など、海外への展開にも積極的だ。武田薬品やエーザイ、アステラスなどの大手製薬メーカーは新薬創出に行き悩み、巨額の金額で海外のベンチャーを買収している。しかし、帝人ファーマは海外ベンチャーを買収する資金力にまだ乏しい。売り上げは武田薬品工業の10分の1である。製薬会社70社のうち、20位くらいの規模でしかない。自社創出と導入に頼らざるを得ない。

 しかし、帝人ファーマには医療機器もある。在宅医療向けの携帯用酸素ボンベ、酸素濃縮装置「ハイサンソポータブル」を扱い、リーディングカンパニーになっている。さらに睡眠時無呼吸症候群の診断・治療器というのもある。余談だが、東日本大震災が襲ったとき、帝人ファーマは被災地に2万5000人いる患者のために全国から社員を集めて被災地に投入。濃縮酸素装置600台、携帯用酸素ボンベ1万7000本を運び、患者を探しては酸素ボンベを届けた。携帯用酸素ボンベは呼吸器障害の患者には手放せない医療機器である。「地震発生後の20日間で99・8%の患者の安否を確認し、酸素ボンベを届けた」という。死者、行方不明者合わせて2万人を超える中で、99・8%というのは患者全員に届けたのも同然で、絶賛される行動だ。帝人にはこの誠実さ、真面目さがある。この生真面目さで新薬創出にいそしめば期待できる。

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